「原発がどんなものか知ってほしい(全)」
平井憲夫氏 (1996年執筆)
                                                     
コメント:渡部英宣

1996年に既に今回の福島第一原発の事故を予測し、原発が如何にいいかげんに出来ているかを告発した、故平井憲夫氏の原発施設工事の実態報告書です。

詳細を読むうちに、只単に原発の施設工事を告発しているのではなく、日本が長い間かかって築き上げて来た品質を大事にする風潮が壊されて来てしまった現状を告発されている様に感じます。

第1に、原発の設計が悪い。既に色々と判って来た様に、自然を対象にしている原発では、想定外等あってはならないのに、従来発生したレベルの地震や津波でも破壊されてしまう、「想定」の低さが問題です。
津波があって、燃料タンクが全て波に浚われてしまうということを想定していなかった。外部電源が破壊された場合の被害の甚大さを考慮していなかった等が今回の問題ですが、平井氏は故人ですので、今回の件は当然触れられていませんが、今までも、かなり怖い、色々な事故があったことが判ります。

第2に、施工が悪い。この施工の現状を詳細に報告しています。(グローバライゼーションと言う美名?の元に、)兎に角安く働かせる為、季節労働者や派遣社員を使った(個々人が悪いのではなく、制度を言っています。)いいかげんな仕事でもOKとなるマニュアル至上主義の現状がわかります。

そして一度事故があれば、対応する現場の人は、見えない放射能と闘いながら、どの様に仕事をしているかの実態がわかります。如何に過酷な労働環境か、そして、いいかげんな作業しか出来ないか。個々の作業員の問題ではなく、システム、制度の問題であるかが判ります。

その上、その施工を検査する検査官もが素人であり、まともな仕事をしてこなかった事が、原発施設の弱さを招いています。
想定外のレベルの地震であり、津波であったとの言い訳ですが、実際にはそれ以下のレベルの地震、津波でも耐えられなかった弱さが内在されていた、と言う事が1996年当時の告発で判っていながら、何の手当てもして来なかった事が今回の事故を大きくしてしまった結果であることがわかります。

日本の宮大工は伝統を重んじ、自分の仕事の完成度を歴史に判断してもらうと言う気構えで、手抜きのない、最高の仕事をする事を誇りにして来たと思っています。(金剛組の宮大工の事例等) しかし、原発の様な非常に危険な施設であるのにも関わらず、コスト優先の中、誰にでも出来る、詰まり季節労働者等、殆ど経験がなくても出来る仕事の仕組みにより、素人がマニュアル通りにやれば何とか格好だけは終わる仕事の仕組みを作ったことが、結局は品質の低下を招いている事が良く判ります。 正社員が自社の命運をかけて、責任を持って、日本の為に働くと言う思想が全く消えうせてしまった中での、単なる「作業」の結果が今回の事故の遠因であるとも思われます。

この様な日本の社会を作ってしまった政治体制、経済界、それを許して来た我々全員が告発されている様な気がします。

現実には、原子力発電所がなければ、全ての社会生活が成り立ちません。
しかし、現状のままでは近い将来、二度、三度の同様な事故が発生する可能性が大であろうと思われます。
平井憲夫氏が、我々に語りかけている原発工事の実情を理解し、一人一人が謙虚に反省し、それに対する対策を皆で考える必要があるのではないかと、考えます。

こうなってしまった現実の中、どの政党が良いとか、誰が悪いとかではなく、本当に日本の為、社会の為、人類の未来の為に、これから、何をどうするか、この現実をどうすべきかを考える為の資料としてお読み頂けると、幸いです。


原発がどんなものか知ってほしい(全) by 平井憲夫氏 (1996年執筆)

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