HOME
Eisen's Corner
コラム編

「平和記念式典の日に思うこと。 戦後レジームからの脱却?」
2007.08.06

又、広島での平和記念式典の日が巡って来ました。平和への思いを強くしつつも、タリバン兵による韓国人拉致問題、北朝鮮の核開発問題等、平和への脅威は一向に減っていません。  「核爆発災害」(高田純-中公新書)が東京の中心部が核攻撃された場合の被害を予測していますが、今や広島型原爆の何十倍もの威力を持つ原爆・水爆が26000発以上も全世界に配備されています。

核廃絶の祈りは強いのに、核兵器保有国は徐々に増え、核による脅威は増加している様に思えます。どこかの国のリーダーの誤った判断、各種装置の誤作動、テロリストの意図的な仕掛け等が発端で、全地球を何万発もの弾道弾が行き交う、それこそ最終世界戦争に何時ならないとも限りません

原水爆のリアルな映像を下記URLが見せてくれています。特に3)は一度核戦争に突入すれば、誰も制御できなくなり、全て自動で何万発もの核爆弾が行き交う最終末を実感するに十分です。是非ご覧下さい。
サルの惑星どころか、その惑星さえ残らず、宇宙の塵になってしまう可能性さえ感じられます。

1)Thermonuclear Bombs during Operation Dominic:
   http://www.youtube.com/watch?v=joupmq4e2eM&mode=related&search=

2)effects of thermonuclear weapons:
    http://www.youtube.com/watch?v=seyiah3CS7w&mode=related&search=

3)Nuclear War: Atomic Explosions. Hydrogen Bombs.     
   http://www.youtube.com/watch?v=M_jws2AsS0g&NR=1

そんな中、原子力空母ジョージ・ワシントンが、08年以降、横須賀を母港とするとの事。アメリカ第七艦隊が横須賀を拠点として行動することになったのです。米国の空母が外国の港を母港とする、1年の半分は横須賀にいることになるのです。しかも安保条約からいえば、この様な「配置における重要な変更」は事前協議の対象になっていたのに、発表はアメリカ大使館からの声明だけ。国民には全く知らされていないのです。「日米同盟、未来のための変革・再編」=「在日米軍基地再編」は、基地合体や日米の指揮権統一等、大きな問題があります。横須賀の同じ敷地に、海上自衛隊の自衛艦隊司令部があるとの事ですが、どちらが指揮をするか……海上自衛隊が第七艦隊を指揮すると考える人はいないでしょうが。

同様に、座間では米国の「第1軍団司令部」と陸上自衛隊「中央即応集厨司令部」があり、横田の米軍基地には空自航空総隊司令部が移転し、連合態勢を作っています。もうお判りの様に、在日米軍再編とは、アメリカの世界戦略、アジア太平洋戦略、米国の指令系統の中に自衛隊が組み込まれていく過程なのです。

日本が核兵器を持たず、作らず、持ち込ませずとの非核三原則を堅持することについては、これまで歴代の内閣により明確に表明されていましたが、原子力空母が日本に入港する時に核爆弾を外して来るとは有り得ないので、実際は日本の主張は殆ど全く考慮されず、非核三原則は完全に無視される事は明確でしょう。しかも従来は事前協議と言う前提があったのですが、今回は大使館の発表だけで、事前協議もないのです。日本の原子力発電所だったら、安全審査会や公聴会その他、環境調査や定期検査等で迫れるのですが、空母は別で、原子炉、核弾頭があるのに治外法権により、指一本触れることは出来ません。これでどこが対等な「同盟」なのでしょうか。

一方07年1月9日、防衛庁から防衛省への変更が発表されました。国会での審議は衆参両議院合わせてたったの24時間。その殆どが防衛施設庁の談合スキャンダルに費やされ、法案の中味はまともに討論も行われずに強行採決されてしまったのです。そして二つの関連法案により、防衛長官は防衛相になり、閣議への議案提案や財務相への予算要求を、防衛相が直接実施できるようになったのです。又、周辺事態での後方地域支援等が「付随的任務」から「本来任務」に格上げされました。庁から省への変更。これは単なる格上げではありません。自衛隊から、完全なる軍隊への変更、何時でも海外へ派兵が出来る様になったのです。既に各方面から、軍への呼称変更をすべしとの声が出ています。

防衛省開設の記念式典の訓示で安倍総理はこう言っています。「私はこれまで戦後レジームからの脱却を繰り返し述べてきました。美しい国日本を造って行く為には戦後体制は普遍不易とのドグマから決別し、21世紀に相応しい新たな理想を追求し、形にして行く事こそが求められています」「今回の法改正により防衛庁を省に昇格させ、国防と安全保障の企画立案を担う政策官庁として位置づけ、さらには国防と国際社会の平和に取り組む我が国の姿勢を明確にすることができました。これはとりもなおさず戦後レジームから脱却し、新たな国づくりを行う基礎、大きな第一歩となると思います。」

何か判った様な、判らない様な、今一すっきりしません。政治家や評論家等がカタカナ語を使うときは、論点をぼかそうとしているか、騙そうとしているか、後で言い訳する為の準備か、日本語を知らないかどれかです、とは良く言われる警句ですが、この戦後レジームとは何でしょうか。

レジームregimeはフランス語で「体制・秩序」の意味、フランス革命での「アンシャン・レジームAncien regime(旧体制)」が有名ですが、ニュアンスとしては古き悪しき固陋体制でしょうか。一般的には否定すべき悪い体制の意味で用いられる様です。

では戦後レジームとは何をさすのでしょうか。安倍総理の言葉を借りれば「この国を形作る憲法や教育基本法等、占領時代に制定されたもの」であり、憲法や教育、安全保障(特に集団的自衛権行使の有無)、象徴天皇制等、「占領時代に作られた基本的枠組みの多く」を指していると思われます。

しかし筆者としては、現行憲法や教育基本法等、安倍総理の言っている「変えるべきもの」に、問題点を感じていません。逆に、「軍国主義の戦前体制を打破してできあがった民主的な体制」が「戦後体制(良い意味で)」であり、そこからの脱却は本質的には「民主的な戦後体制の否定」を意味することに繋がると考えています。戦後を象徴する重要なものとして、例えばポツダム宣言は、

「日本国政府は日本国国民の間における民主主義的傾向の復活強化に対する一切の障害を除去すべし。

 言論、宗教及び思想の自由ならびに基本的人権の尊重は確立せらるべし。」

とありますが、この内容は今読んでも非常に納得出来る内容ではないでしょうか。

占領軍の命令によって実現したものとしては、女性参政権、農地解放、治安維持法の廃止、思想信条の自由等、多くのものがあります。しかもそれらは単に与えられたものではなく、日米双方の努力の結果実現出来、しかもそれらを通して、世界でも稀有の驚く程格調高い、素晴らしい日本国憲法に繋がって行ったのです。携わった日米の担当者だけが自己満足するのではなく、国民の圧倒的な支持を得ることになった訳です。占領軍は、民主主義を妨害する「戦前レジーム」を取り除いただけであって、「主権在民」「基本的人権の尊重」「平和主義」という民主主義の芽を育て花を咲かせ果実を付けさせたのは日本国民なのです。これらの何処がいけないのか、不満なのか。

この観点から言うと、「戦後レジームからの脱却」は全く必要ないと筆者は考えます。

安倍総理は、集団的自衛権の問題に付いて、「いかなる場合に憲法で禁止されている集団的自衛権が該当するのか、個別具体的事例に即して、清々と研究を進めてまいります」と述べています。第3国、つまりアメリカが攻撃されている場合に武力行使をするのを、現憲法で認めることは不可能ですが、「個別にできる場合を見つけよう、というのです。」つまり、前述の米国の指令系統の中に自衛隊が組み込まれていく過程に、有事法制や、地方自治体や民間が取り込まれて行く。そしてそこに集団的自衛権により、活動できる領域を見出し、それを元に参戦へ積極的介入が出来る様にするのが、安倍総理の「戦後レジームからの脱却」なのです。 そしてそれは将に「アメリカン・レジームへの併合」なのではないでしょうか。

今後一番問題となる、9条第一項は、「永久に」戦争を放棄すると規定しています。

第11条では、「基本的人権は侵すことの出来ない永久の権利として、現在及び将来の国民に与えられる」「この憲法が日本国民に保障する人権は、人類の多年にわたる自由獲得の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に耐え、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」と規定しています。

国家の最高法規である憲法が「永久に」という言葉を用いて「国民の侵すことのできない永久の権利」であると言うのは「侵すことのできない権利と言う原則の変更を絶対に許さない構造」になっているのです。日本国憲法は、時代の流れの中で、色々な為政者の出現によっても侵すことのできない、永久の権利を保障しようとするものなのです。

それにも関わらず、愛国心教育や国歌、国旗への忠誠心を植えつける等様々な手法で国民の思想を統制し、国連への貢献等大儀名分を基に、海外派兵への流れを作り出し、その上で国民投票法案なるもので、憲法を改悪し、世界戦争への道を付けようとする危険な動きが今回の「戦後レジームからの脱却」なのではないかと考えます。「押しつけ憲法」を改正しようというのは、本質的な問題ではなく、憲法を守ろうとする主張を、憲法の規定を無視して排除することにより、憲法を改悪する動きなのではないでしょうか。

先の参議院選挙で安倍総理は「戦後レジームからの脱却」、「美しい国日本」、「世界の平和と安全」を掲げて戦ったのですが大敗を期した訳です。何とか還元水に始まる金の流れの不透明さ等、相次ぐ閣僚の不祥事への、リーダーとしての意識の低さと指導力の無さが問題となった面が大きいですが、それ以上に、近年の様々な政治の変化に、国民が「戦後レジームからの脱却」の未来へ、漠然とした恐れ・不安を感じ、「アメリカン・レジームへの併合」のストーリーにNoを示し、指導者としての資質に問題を敏感に感じ取ったのかもしれません。日本国民のバランス感覚は辛うじて保たれたのだと思っています。        

 (参考:北 康利「白洲次郎 占領を背負った男」、前田哲夫「防衛庁が防衛省に」、高野哲郎「戦後レジームからの脱却の意味するもの」他) 
HOME TOP

                      Copyright (c) Office-Quality.com all right reserved.