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Eisen's Corner
コラム編

100円マックのホスピタリティー
2008.04.30 渡部英宣

経営コンサルタントの山口廣太氏が表題の本を上梓し、内輪の勉強会で、講演をしてくれた。  マクドナルドの経営ノウハウを片面解説/片面漫画式に判り易く解説してくれている。通常、社外秘であるこの種の経営ノウハウに対し、良くここまで調査し、纏めたものと感心する。マクドナルドの経営方針である、QSC+Vの具体的内容紹介は同書にまかせるとし、筆者の感じたところを書いてみたい。


㈱H&I社(ISBN978-4-901032-92-6 1905円+税)


一般に、経営者は理念を語ることは多いが、それをどう考え、どう具体化するかは「社員個々が考えよ」式が多い。つまり、どう具体化するかが曖昧であることが多い。この為社是等、時代の変化により、個人個人により様々な解釈がされる場合が多いし、時にはお飾り的になることもある。

マクドナルドの成功は、この様なお飾り的になりがちな理念を、日常のオペレーションの中に具体的に落とし込み、行動や、行為のイロハをマニュアル化した点にある。しかも画一的にならぬよう、臨機応変に各自に対応をさせる仕組みの確立をしたことによるところが大きいと感じる。


コンビニ等、多くのチェーン店式オペレーションノウハウの中で、マクドナルドの経営ノウハウの特徴は、パートさんやアルバイトさんから店長等の各レベルの社員の様々な業務を、詳細に規定しているだけでなく、徹底的に具体的にサポートしている点にあると思う。しかも、その社員の格付けに応じ、かなり高い目標レベルを要求し、その為の具体的教育、トレーニングに至るまでの仕組みの確立を徹底的に図っている。

そして夫々のオペレータの業務遂行状況を測定し、評価に繋げ、給与にまで反映させている。これにより、やる気を出させ、向上意欲を引き出している。


例えば店長等には、経営計画書の作成等、経営者の視点で考えることを求める等、同業・同種他社と比較して、通常以上の役割、質の高い業務内容を要求しており、これが出来るような仕組みを確立している点が大きく異なると感じる。
この様な仕組みの中で若い時にアルバイトやパートから仕事を始め、店長になり、スピンアウトして成功している人達の中で、マックでの経験が非常に役立っているという話を聞くが、さもありなんと思う。

私は結構多くの国を訪問しているが、通常は出来る限りローカルな食事をエンジョイする事を心がけている。
しかし、時間がない場合や、不案内であまり選択の余地がない場合、マックには救われることも多い。殆どの国には必ずマックがあり、何処に行っても殆ど同じ品質のものを食べられるからであり、多少のバラツキがあっても、QSC+Vに対しての最低限のレベルは保証されていると感じるからである。

この様に世界中、どこに行ってもMの字を見ない事は無く、それなりに受け入れられ、一見成功している様に見えるマックであるが、我が家ではそれ程評判が良くはない。2つの理由がある。

一つは、QSC+Vの中で一番大切なQに対する不信の念である。
今は100円ではあるが、何回も価格を変更して来たMacは一頃、平日¥65.-と言う時期さえもあった。これ等の価格で、安全で栄養があるハンバーガーが食べれる訳がないと言う常識的不信である。
中3のいる我が家では、食品の多くを、割高ではあるが多少とも安全と思われる生協から購入している。そこでの価格と比較するのは酷ではあるが、どんなに頑張ってもコストさえ、出て来ない。「その地域で最も安いところから大量購入できるシステム」の存在は判るが、それでも安すぎると感じる。入れてあるレタスやトマト等、農薬等の心配ももちろんあるが、一番の関心事はバーガーそのもの。肉そのものに不安がある。

BSE問題で米国牛肉に対する大きな不信感を持った消費者は、安いマックに対し、何を食わされているか分からないと言う漠然とした、しかし本質的な不安を感じているのではないか。そしてその上、添加物に問題はないのか?等の心配である。 勿論、マックのホームページでは「オーストラリア、ニュージーランド産を歌い、一切の食品添加物、つなぎ、調味料を使用しない、100%牛肉のビーフパティー(JAS上級)」と宣伝はしている。又トレーサビリティーがあるとは言っているものの、企業秘密である為、消費者には分からない。又、類似商品よりはマシ?とは思うものの通常の牛肉に比して、味を含め、やはり今一つ???の部分がある。特に一旦冷えると食えた物ではない。何か後味の悪さが残る。

一般に添加物や食品の安全性に対する信頼性ある内容表示を求める日本の消費者に取り、バーガーのメインの肉自体が、何であるか判らない、何を食わされているか判らないという不安、不信の念がぬぐえないのが最大の問題であろう。マックの場合、バーガー単品ではなく、バリューセット等での販売が多く、ソフトドリンクやポテトチップ等の売り上げで多くの収益を上げていると思われる。その価格構成・販売戦略は、だましの一つの様で問題とは思うが、それは別にしても、どんなに考えても、
65100円で利益が出る筈がない。おかしいと感じてしまう。何処かにカラクリがあると感じてしまうのである。


2つめは、あまり知られていないが、この不安を増幅している、会社の損益構造である。日本マクドナルドは、米国本社との契約で売上高の6%?をロイヤリティーとして取られているらしい。その多くが元の社長であった藤田氏の会社である、藤田商店に支払われているらしい。材料の購入費の手数料を含め莫大な金額が藤田商店に流れていたと言われている。非常に高率である。売上高利益率が6.8%位の中から6%を取られてしまえば、殆ど利益は出ない。その様な中、配当を続けようとすれば、コストダウンのプレッシャーは非常に高いであろう。必然的に品質の低下が予想される。しかしこれらの損益構造はHPにあるような数値しか公開されておらず、判らない。材料の供給体制、手数料の不透明さ等、株価が低迷する理由の一つとなっているのではなかろうか。藤田氏降板と共に、米国人取締役2人が乗り込んで来て日本人役員との比率が逆転し、実質米国法人となりつつある?日本マクドナルド社が今後どの様な経営となるか興味深い。

マックの成長はファーストフード産業のバロメータの一つであるが、日本での継続的成功を考えると、原材料の不信感を拭い去ることと、収益構造の透明化が鍵となるのではなかろうか。
そのベースが確立されなければ、笑顔のサービス等の末端の努力だけでは、日本の多くの顧客の心を掴むことは出来ないと思う。


キャッチコッピー i'm lovin' it. の解説

蛇足ではあるが、Macのキャッチコピーである i'm lovin' it に対して解説をしておく。
これは、I am loving it. の口語形である。 通常は I love it. であり、文法的には現在進行形とはならない。
しかしここでは、わざと、現在進行形であらわし、今将に、と言う感覚を入れている。意味としては、硬い表現では、「愛用している」「使ってる」「気に入っている」等であるが、砕けた口語としては「今食っている」「今使っている」「今、はまってる」「今それに凝っている」「これがいいんだ」の様な感覚。 この本の題名としては、「それ(マック)って良いね。」「私もそれにはまってるんだ」位と考える。

では、何故Macではなく、it なのか。: 話し手が自分で食べていて、始めてMacの事を話す場合は Mac か、this の筈である。もうお判りの様に、it が出てくるという時には、その前にMacの話が出ていて、それ it が何であるか判っている場合である。即ち2人以上の人がいて今話題になっており、例えば、誰かが Mac を食べており、そこに話し手が、「わたしもそれにはまってるんだ」という状態なのである。つまり単なる一人の自己主張ではなく、誰かがMacを好きで更に自分も好きだという意味が込められている。

次に、何故 I'm でなくて、i'm なのか: これは正に口語を写実的に表現している。TVのCMではハッキリとアイムと言っているが、通常の会話では「アイム」より、「イム」となって、ア音が殆ど無くなったり、人によっては「イ」が消えて「アム」となることも多い。しかも、実際の会話では、(i'm がはっきり発音される場合もあるが)、全体としては i'm は殆ど口の中でだけ発音され、聞こえる音としては殆ど Lovin' it. となることが多い。

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