3)シックスシグマによる経営品質の向上とは何か?(広義のSix Sigma)
前記製品品質を高める必要性は比較的理解し易いが、経営品質の向上と6シグマはどの様に結びつくのであろうか。まずVCM (Value Creation
Management)との関連を考えて見よう。
VCM (Value Creation Management)
企業の存在価値はその全ての活動を通して、お客様、従業員、ステークホルダーの三者に対する価値を創造することにある。その中でステークホルダーに対する価値、いわゆる株主価値は企業の成長の為の資本の調達の観点から特に重要である。それ等の価値創造が最も大きくなるように全ての活動を方向づけ、努力する必要がある。
お客様が本当に欲する物をタイムリーに供給し、喜んでもらい、それに応じた対価を貰って社員が生きがいや満足感を感じながら仕事が出来る、しかもその仕事を通じ社会へ貢献する。またその利益を出来るだけ多く株主に還元する。これらが全て調和がとれて始めて企業価値があると言われる訳である。
この様な企業価値の創造を実現する事を全組織の最高位の目標として捉え、様々な企業活動を行う事が、Value Creation Management (価値創造経営)である。その為の具体的対象としてSCMを考えてみる。
(1) SCM (Supply Chain Management)
商品やサービスを提供する上で最も重要な事は、最終的なお客様に「必要な物を、必要な時に、必要な数だけ、出来るだけ安い価格で提供する」ことである。即ちお客様が購入したいと考えた時に、その欲しい物が、必要量だけ即座に購入出来る様にし、しかも売れ残ら無い様に流通在庫を含め、在庫をぎりぎりまで少なくし、且つコストを押さえて供給することが望まれている訳である。人間の体で言えば、動脈の様なもので、栄養分と酸素等体が必要な物が、必要とする時に必要充分なだけ即座に供給出来る体質が望まれるわけである。そして中間に動脈瘤等、流通を疎外する物が無く、常にスムーズに循環していなくてはならない。
@必要な物を
32”のカラーなら沢山の在庫があるのに、お客様の欲しい50”は在庫が無い等、必要な物が無いというクレームはしばしば。お客様が欲するものは何であるか、市場の動向を先取りし備えると共に、必要な機能・性能等々VOC(お客様の声)を真剣に捉え、お客様が必要とする物を提供出来る体制の構築が必要である。
A必要な時に
・たった一つの部品が無くてセットが完成しないとか、
・様々な高いハードルを乗り越えて、ようやっと期日に出荷したのに、ロジスティックスの方では 「急いでいるとは知らされていなかった為、無理すれば乗せられたけど、ま次の船で良いか」 となり、販売側の予定より半月遅れたとか、
・本体は折角発売時に間に合わせたのに、別売りのアクセサリーが無くて発売出来なかったり
・協力会社にたのんでおいたリモコンが仕様と一部異なっていたり、
・ソフトが間に合わなかった等の為、折角のセールスチャンスを逃してしまう
等良くある話しである。
お客様が望む時に物が有るように、関連部門、協力会社を含めた全ての業務が同期して進められなければならない。その為には情報の共有とその責任ある活用、及び進捗等の確認体制の確立、クリティカルパスヘの注意深い支援等、様々な取組みが必要である。
B必要な数だけ
従来のベルトコンベヤを使用した大量生産、大きな倉庫から全世界に流す物流という考え方では、適正在庫として2ヶ月位のバッファーを持つことが常識であった。さもないと販売の機会損失が出る訳である。部品コスト・製造コストが在庫コストやリスクより重視されていたからである。しかしこの様な供給側の理論で物が作られていると、競合他社の新製品や経済変動等様々な理由で結局は大きな在庫に苦しむ事になる。3ヶ月毎に新製品を投入するのが普通のPC-IT業界等では正に売れない在庫は命取りである。この為昨今は在庫削減がキーワードであり、機種切替えが楽なセル方式等、需要側の理論で物を作る様になって来た。
これが可能となって来たのは、お客様の必要としている物や数量が、製造側で簡単に把握出来る情報系の整備のお陰である。しかし最終的にはそれを自社だけでなく、部品のサプライヤー迄同じレベルで把握でき、必要な物を必要なだけ必要な時期に供給出来る体制がなければならない。その為には長期経営方針、短期需要予測、現実の受注量等の情報を関連する部門が共有し、同調・同期体制が確立されなければならない。
システムがあるだけでは駄目で、関連する全てのセクションで、やるべき人が、やるべき業務をきちんとやる必要がある。この様に製品の製造スムーズな提供には、資材やロジスティックスを含め、様々な関連部門の支援が不可欠であるが、その夫々の部門での業務品質の向上なしにはこれを達成することは出来ない。
C出来るだけ安い価格で
製品価格は設計方針、仕様される部品、製造コスト、SGA等に左右されるが、当然只単に安ければ良いと言うのではなく、お客様の期待する品質を確保した上で、且つ使用されるライフタイムにかかるトータル費用を安くする必要がある。この製品品質は、設計方針、部品、製造工程が重要なファクターであり、協力会社/関連部門夫々の品質向上が不可欠である。その為にはいわゆるCOPQ
(Cost of poor Quality):品質不良により発生するトータルコスト を考えなければならない。
部品/工程のバラツキ
使用される部品や工程の目標値からのバラツキが、大きければ大きい程それによるコストCOPQは増大する。例えば仕様値ギリギリの部品が多く組み合わされた場合、出来上がるブロック等半製品は何らかのリワークが必要となる場合が多くなる等、その為のコストが発生するからである。(田口の損失関数)
製造品質
一方、品質問題の発見が、製造ラインから時間的地理的に離れれば離れるほどその修復にかかる費用は指数間数的に増大する。製造ラインでなら最小コストで対応出来るが、市場に出てからだと多大のコストと、お客様に大きな不便をかける事となる。ましてや保証期間を過ぎた途端に不良となれば、お客様の不満は増大し、CSに大きく反することになる。頻繁な故障や、ライフタイムサービスコストの増大等により、ブランドイメージが大きく傷つけば、長期的な顧客の維持獲得や不満の修復にかかるCOPQは莫大となる。従って例え一時的な利益を得ることが出来るとしても、品質不良を内在する製品の販売は、総合的に考えると企業の進むべき方向ではない。
ソフトの品質
世の中が高度になれば成る程、販売する製品に占める情報の割合が大きくなる。ハードウェアより、ソフトの占める割合が多くなる事もある。使いにくかったり、間違った情報を与えればそれは必ず問合せやクレームとなる。パンフレットや取り扱い説明書の記載ミス、又説明の分かり難さにより、問合せの電話や手紙は急激に増大する。販売台数が多ければ多いほど、対応する担当者の負荷は増大し、結果として人員の増大に繋がり。大幅なコストアップ要因となる。この為どの様にしてミスの発生を防ぐかは、企業により大きな課題となる。今後、インターネット等情報系を経由した製品の増加や、情報その物を販売する様になってくると、提供する情報を含めた総合的製品品質の向上が大きな問題となる。
この様な考えは全ての関連する支援部門にも当てはまる。
しかも流通過程も出来るだけシンプルにし、不要な流通在庫の削減と、企業価値を生まない不要な流通の形態を整備し直す必要がある。これがサプラィチェーンの要諦である。
ピアノ、バイオリン等の楽器を弾く際、最高の音やメロディーが出せる様に頭という指令塔と指や腕、それを支える胴体等、各部が統合され、軽妙に調和された動きが必要であるが、ビジネスの中で必要とされるものも、それと似ていることは良く言われる。何をすべきなのかの目標や、達成レベルの理解等が、全体最適で且つ部分性能も最高である様な調和が大切。目、耳等の5感全てにより状況を瞬時に把握しながら全体に調和させるわけである。これがサプラィチェーンにおける情報の入手とフィードバック等情報の活用の仕方に現れるわけである。この様にビジネスを成功させる為には、製品がお客様の手に渡る迄の全ての業務を一気通貫で行うビジネスの仕組みが必要であり、各部門が様々な環境に於いて、お互いに協力しあい、情報の共有/共鳴する事が必要であり、それに基づくコラボレーションが求められる訳である。
6シグマと言う高いレベルの製品品質を追求しようとすると、単に部品や製品の品質を追い求めても達成出来ないことは明らかであり、支援部門を含めた会社全体の経営の質の向上、全業務の同期した品質の向上が必要となる。
この様に、当初は提供される商品やサービスの品質の向上を図る、即ちそれら商品/サービスを構成する部品や製造プロセスの品質を非常に高度なものとする事が目的であり、6シグマはその品質の測定基準であったが、最高の品質を達成する為のアプローチの仕方、プロセス改善の為の全体手法、即ち会社全体の経営の仕組みの改善を図る手法を6シグマと呼ぶ様になった。 (広義のSix
Sigma)
(2) EVA (Economic Value Added)
ではその様な企業体質即ち、最高のサプラィチェーンを形成出来れば、理論的には利益が出る体質にはなるが、実際に利益を上げられたのか。そのオベレーションの結果を判断する指標の一つが経済的付加価値、EVAである。当然の事ながら、EVAには販売にかかったコストだけでなく、開発コストや、その商品/サービスを提供しつづける為に払った各種にコスト、さらには借入金等の使用された資本コスト等も盛り込まれる。又、品質が悪く修理サービスで莫大な費用がかかったり、借入金が大きく結果として全く利益が出ない場合もある訳である。
(この項、続く)
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